大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和52年(行コ)20号 判決

控訴人(原告) 阿野勝

被控訴人(被告) 特許庁長官

原審 東京地方昭和五一年(行ウ)第一七八号(昭和五二年三月三〇判決、九巻一号三九六頁参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和四九年六月一五日控訴人の昭和四八年二月一日付でした特許出願(昭和四三年特許願第六四七三八号、発明の名称「油としよう油とで味付された米菓の製造法」の分割出願)についてした不受理処分を取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出、認否は、次の主張を追加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴代理人は次のように陳述した。

1  特許法第四四条旧第二項は「前項の規定による特許出願の分割は、特許出願について査定又は審決が確定した後は、することができない。」と規定するのみであるから、特許の分割出願は、原出願について拒絶査定がされていても、これが未確定の状態にある時点においてなされさえすれば、適法と解すべきであつて、その後原出願の命脈上に発生した事情の変化によつて、その適法性が左右されるものではない。したがつて、本件分割出願も、その出願当時原出願に対する拒絶査定が未確定であつた以上、適法というべきであり、その後右拒絶査定に対する審決請求書却下決定の取消訴訟についてなされた請求棄却の判決に対する上告が棄却されたが、これによりその適法性に影響を受ける筋合いはない。

2  特許法第四四条の規定する出願の分割、第四五条、第四六条の規定する出願の変更、第四三条の規定する条約上の優先権主張の出願といえども、普通の特許出願と異質の出願ではなく、本質的にはこれと同一の出願であつて、ただ、それぞれ法定の形式的付加条件(手続上、期間、願書の記載事項の付加等)および実質的付加条件(原出願の発明考案との同一性等)を具備していれば、普通の出願としての待遇のほか、出願日の遡及という法律上の優遇を受けられるに過ぎない。このことは、第四四条第二項に「前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。」とあること(これは旧特許法施行規則第四四条の「二以上ノ発明ヲ包含スル特許出願ヲ、二以上ノ出願ト為サムトスル者ハ其ノ一発明ニ付テハ出願ヲ訂正シ同時ニ他ノ各発明ニ付新ナル出願ヲ為スベシ。」という規定の趣旨を承継したものである。)また、例えば、優先権主張の特許出願が、法定の期間の経過後になされた場合もしくは法定の期間内に優先権を証明する文書を提出しなかつた場合においても、特許出願としては有効であつて、ただ、優先権の主張が認められず、出願日遡及の恩恵に浴し得ないだけであることから明白である。

二  被控訴代理人は次のように陳述した。

1  本件分割出願を既にその原出願に対する拒絶査定があつたものとして受理しないものとした本件処分は、仮に右拒絶査定が当時未確定の状態にあつたため違法であつたとしても、右拒絶査定に対する審決請求書の却下決定の取消を求める訴訟においてその請求を棄却する判決が昭和五〇年七月四日確定し、その結果、右拒絶査定に対しては適法な審判請求がなされなかつたことに帰し、右拒絶査定がその謄本送達の日から三〇日を経過した昭和四六年七月二九日の終了とともに確定したので、当初の違法な瑕疵が治癒されたものというべきである。

2  また、分割出願等、控訴人主張の各種の特許出願が通常出願の形式的要件の履践を要求されるからといつて、特別の効果を伴う出願として特に要求される法定期間の経過後になされた場合にはその出願時に通常出願がなされたものと解すべき法律の根拠はない(但し、いわゆる優先権主張の出願の場合を除く。)。むしろ、特許法第四四条一項の規定による分割出願は、同条第三項の規定する効果を求めてなされるものであるから、そのために法律上要求される形式的要件を具備しないときは、不受理処分に付すべきものである。

理由

一  当裁判所は、本件特許出願不受理処分に違法な瑕疵があるとする控訴人の主張を理由がないものと判断する。その理由は、次に附加するほか、原判決の理由一および二の1(第一二丁表第一行ないし第一五丁裏第九行目(編注、九巻一号四〇二頁一五行目から四〇五頁六行目まで))と同一であるから、これを引用する。

二1  控訴人は、本件分割出願を、その出願当時原出願に対する拒絶査定が未確定であつた以上、特許法第四四条旧第二項の規定によつても、適法というべきである旨を主張するが、右拒絶査定に対する審判請求書却下決定の取消訴訟についてなされた請求棄却の判決の確定により、右拒絶査定がこれに対する不服申立期間満了とともに遡及的に確定した以上、右分割出願を適法と解すべき法律上の根拠は失われたものといわなければならない。

2  次に、控訴人は、本件分割出願は通常の特許出願として受理さるべきであつたと主張する。しかし、そもそも、特許法上、法定期間後になされた特許出願の分割をもつて通常の特許出願とみなすべき旨の特別の規定はないのみならず、同法第四四条(旧第二項による。)の規定に徴すると、特許出願の分割(分割出願)は、原出願に包含された複数の発明の一または二以上を抽出して別出願とし、これを原出願の日に出願したものとみなされる反面、原出願について査定または審決が確定するまでにしなければならないという時期的制約を受ける特殊の出願形式であつて、手続上も特に同条第一項の規定による出願たる旨を表示し、かつ、原出願を表示してされるものである(同法施行規則第二三条第一項)から、これが「新たな特許出願」として通常の特許出願と共通の性質を有するというだけで、右のような時期的制約に違反する不適法な分割出願を通常の出願に転換して審理すべき余地はないものと解するのが相当である。

3  以上の次第で、本件不受理処分には原告主張の違法な瑕疵がないものといわなければならない。

三  よつて、同処分の取消を求める控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎 石井敬二郎 橋本攻)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例